歌めぐり旅(32)カンツォーネのくに

 わたしのイタリア入りは1971年夏ヨーロッパ・バスツアーの終盤、北からのブレンナー峠越えでした。まわった主要都市はヴェネチア、フィレンツェ、ローマ、ナポリ(ポンペイ)です。シャンソンにはカンツォーネの仏訳があって、たとえば待ちましょう、ルナ・ロッサなどがそうで、<過ぎゆくはしけ>などは<マリウ愛の歌を>の曲をかりて作詞したとされます。若いころシャンソンにはまり、知らぬまにカンツォーネにも親しんでいたのです。シャンソンの聴きはじめが原詞でなく日本語訳詞で、歌っていたのが芦野宏でした。芦野は1983年、第2回日仏親善コンサート・ツアー帰路のヴェネチアでゴンドラに相乗りして、カンツォーネをファン・サービスしておりました。

 芦野は『リサイタル』1957、『リサイタル第2集』58として、シャンソン・カンツォーネのLP (2集に夜のヴァイオリン、アリヴェデルチ・ローマ)を出し、移籍後の1枚目は『唄はゴンドラとともに』59です。収録曲は古い順(1950~58) に、アネマ・エ・コーレ、急流、ルナ・ロッサ、バンビーノ、ゴンドリエ、コメ・プリマ、ヴォラーレ、など。以下はレパートリー採用順に、フニクリ・フニクラ[1880曲]1956、チャオ・チャオ・バンビーナ59、月光のノクターン59、ロマンティカ60、アル・ディ・ラ61、ピノキオへの手紙61、アディオ・アディオ62、チャオ・ベラ・チャオ62、ゴンドリ・ゴンドラ62、タンゴ・イタリアーノ62、リコルダ63、夢みる想い63、ほほにかかる涙63(1964第15回紅白)、ラ・ノヴィア[南米曲]64、君に涙とほほえみを65、などがあります。

 大部分はサンレモ音楽祭の優勝・入賞曲です。このカンツォーネ・フェスは南イタリアのフランス国境に近い港町サンレモで1951年にはじまり、70年代までは世界的なヒット曲も量産して活況を呈しました。シャンソンに伍して個人アルバム・全集が邦盤LP、やがてCD化され『カンツォーネの歴史』5枚組なども出ます。第8回音楽祭1958年の優勝曲、ドメニコ・モドゥーニョ作曲・歌<ヴォラーレ>は、イタリアで戦後最大のヒット曲となり全米でもミリオンセラーになったということです。日本でもそれ以後ちょっとしたブームでした。<ロマンティカ>は第10回1960の優勝曲、歌ったのは作曲者R.ラシェル自身とトニー・ダララ。芦野宏はこの年<ラ・メール>とともにクロード・ヴァゾリ(カラヴェリ)編曲・指揮のもとパリで録音しました。<ピノキオへの手紙>は国際童謡コンクール「ゼッキーノ・ドーロ」入賞曲で歌ったのはジョニー・ドレルリ、G.チンクェッティもアルバムに収録。彼女は映画『愛は限りなく』伊西1966に主演し、題名歌と<夢みる想い>などを歌っています。映画『恋愛専科』米62では男性の<アル・ディ・ラ>が聴けました。

 旅でローマの前に立ち寄ったルネサンスのまちフィレンツェは、ボッティチェリ好きにはたまらないウフィツィ美術館があります。アルノ川にかかるポンテ・ヴェッキオは、オペラアリア<わたしのお父さん>の歌詞にある古い橋です。まちでは1600年(関ヶ原の戦い)オペラが誕生しました。わたしのオペラ初鑑賞は藤原歌劇団『カルメン』1969年なので、生誕3世紀半後です。本場ものはローマの『アイーダ』1971カラカラ浴場跡、あとは来日が主で、イタリア73・76『椿姫』ほか、ベルリン、英国ロイヤル、ウィーン、バイエルン(於ミュンヘン)、ドレスデン、ミラノ・スカラ座1981 M.フレーニ『ボエーム』。二期会は1972年から毎公演25年間、約40演目を65回ほど、藤原その他17演目・20回くらいでした。正月3日にはNHKオペラ・コンサート1974~82も。

 オペラ歌手はイタリア民謡(カンツォーネ)も歌います。ひいきを誕生順にいえば、B.ジーリ、F.タリアヴィーニ、R.テバルディ、M.デル・モナコ、L.パヴァロッティ。歌で異色なのは<忘れな草>1953で原歌詞が独語(のち伊語訳)、タリアヴィーニはドイツで同名の映画に出演し、ドイツ人F.ブンダーリヒ、P.シュライアーも自国語で歌っております。大好きな<カタリ・カタリ[つれない心]>1908はカルディルロがナポリからアメリカに移住して作曲し、同郷のカルーソに献呈しました。

 オペラの言語は、ドイツ語圏のモーツァルト作品にはイタリア語台本もあり、全体としてイタリア語が約1/3で、ドイツ語、フランス語の順。オペラの舞台もイタリアがいちばん多く、フランス、スペインの順。歌曲のくにドイツ語圏ではオペラ歌手がドイツ&ヴィーナーリート、オペレッタも歌うように、オペラ誕生のくにでも民謡も歌曲も隔てなく愛されているようです。(2018.12.18) 後藤光夫©

ナポリ風景(LPタリアヴィーニ)
芦野宏LP唄はゴンドラとともに
D.モドゥーニョ サンレモ音楽祭を世界的に
ジリオラ・チンクェッティ(LPジャケット)
フィレンツェ ポンテ・ヴェッキオ 1971
『アイーダ』『トスカ』『ボエーム』などプロ
藤原歌劇団、二期会 それぞれのあゆみ
藤原歌劇団公演『カルメン』1969