さくらんぼの実る頃(11)五月革命 パリとウィーン

 五月はサツキ晴れで気候がよくもっとも美しい季節なのは、ドイツもフランスも同じようです。ハイネは<美しき五月に>とうたい、ムスクーリは<五月になれば>、モンタンは<うるわしの五月>と歌って、みんながアズナヴールのように<五月のパリが好き>なのではないでしょうか。わたしが訪ねたのは<四月のパリ>がいちばん多く、どうやら春になると行きたくなるようです。並木にはマロニエの白い花、街路にも、まして公園には繚乱たる花々と桜の真っ盛りでした。公園で芝生せましと花をめで話にも花を咲かせる昼休み客、東の森の「花公園」はみごとな花園が奥深い。すこしは<小雨降る径>も歩きましたが、<雨傘>をさすほどもない晴れやかな日々でした。

 フランスでは五月はまた政治の季節でもあります。メインテーマ<さくらんぼの実る頃>にかかわるパリ・コミューン1871はじめ、人民戦線派の勝利1936(ブルム:有給休暇制)、ドゴール再登場1958、そして五月革命1968、さらにミッテラン大統領当選1981(グラン・プロジェ)などです。

 パリ五月革命は1968.3.22西郊のパリ大学ナンテール校での大学側管理への抗議集会が発端。5.3大学本部ソルボンヌ校でも抗議集会、警察官と衝突、学生逮捕、交通・印刷などスト、…5.10高校生も集会、デモ<インターナショナル>大合唱、スト、5万人デモ、市民も共鳴、工場などのスト、深更、学生街カルチエ・ラタンでは敷石をはがしたバリケードで警官隊と衝突。5.13全国規模の24時間ゼネスト、戦後最大規模のデモ、5.20ライフラインを除きスト拡大、5.21教育、銀行、デパート、交通も。…ポンピドゥ首相・経営者・労働組合の長時間協議で5.27妥結。デモ、スト、集会をへて6.1、…ドゴール大統領の国会解散、6.30総選挙、ドゴール派の勝利で終結。この危機は学生集会に始まり、労働者が加わり、全部門・階層を巻きこんだ文化・精神革命でした。

 カルチエ・ラタンのバリケード、パリほか各地に機甲部隊の配置など、まるで約100年前のパリ・コミューンを彷彿させます。そのころ<パリで>歌われたという<美しき五月のパリ>を、加藤登紀子の歌で聴いて好きになりました。この1968年は9.8にナナ・ムスクーリの<さくらんぼの実る頃>を聴いた年、その1カ月まえ8.20にはチェコの「プラハの春」がソ連軍に蹂躙されました。自由化への渇望はやがて1986年ゴルバチョフをペレストロイカへとつき動かし、東欧の民主化1989、ソ連崩壊1991で冷戦が終結します。<そして今は>ことばがありません。

 世界じゅうから「花と芸術の都」と慕われるパリとウィーンは、ある歴史シーンを見ますと1848年パリでは二月革命、ウィーンはたちまちその影響をうけて三月革命。またパリは1850~60年代の20年間で都市大改造、ウィーンでは皇帝が人気獲得もねらい1857~65年に帝都大改造です。

 パリとウィーンを姉妹にみたてれば、どちらが年上でしょうか。私見ではパリが姉。妹のウィーンは自尊心を秘めながら、姉にあこがれます。ウィーン生まれのオペレッタ・アリアを聴きましょう。レハール作曲『ルクセンブルク伯爵』ではジュリエットが<私はパリが大好き>と歌います。アリアはヴィーナーリートといってもよければ、いわばウィーンのシャンソンです。おなじレハールの『メリー・ウィドウ』『エヴァ』『フラスキータ』ほか、ミレッカー『デュバリー伯爵夫人』、ホイベルガー『オペラ舞踏会』、レオ・ファル『マダム・ポンパドゥール』、カールマン『モンマルトルのすみれ』などがパリを舞台にしております。

 なかでも世界でもっとも愛されるオペレッタ『メリー・ウィドウ』は本拠ウィーン初演が1905年、パリ初演は1909年です。ドイツ06、ロシア・イタリア・イギリス・アメリカ07、ルーマニア・オーストラリア・日本(英語)08などに遅れますが、パリの世は『ベル・エポック』の終末、アポロ座で上演されます。「総計4百にものぼる舞台で、2万回近くの上演」の大盛況でした。

 ヴィーナーリートはウィーンと近郊グリンツィング、ヌスドルフ、ドゥブリング、シーファリング、ヘルノルス、ローバウ、ヴァッハウなど、それぞれのまち賛美を歌いあげます。また、かつてのペスト流行の記憶がそうさせるのでしょうか。「メメント・モリ」、死を思いながらも、忘れるすべを知る人こそ幸せと人生を楽しみます。パリのひとはといえば、人生百般、喜怒哀楽、なんでも歌にして、万事シャンソンでケリがつくTout finit par des chansonsのだそうです。(2016.4.18)後藤光夫©

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リュクサンブール公園の昼休み
ヴァンセンヌの森「花公園」
ヴァンセンヌの森「花公園」
カルチエ・ラタン ソルボンヌ界隈2007夏至音楽祭
カルチエ・ラタン ソルボンヌ界隈2007夏至音楽祭

 

芸術の都 ウィーン国立歌劇場
芸術の都 ウィーン国立歌劇場
『ルクセンブルク伯爵』
『ルクセンブルク伯爵』<私はパリが大好き>