さくらんぼの実る頃(9)この歌を聴いた歌手たち

 録音は1962年から、録画は84年からはじめ、<さくらんぼの実る頃>は11人、16Version(版)ほど。2014.8コラムのために買ったPCでGoogleなども使いだし、全世界を見物・視聴できるようで、自分の時代遅れはショックでした。まだ使いこなせずに探してないものまで出てくる迷惑もありますが、これまで録音・録画し、音源・映像あさりに海外まで出向いたのは何だったのか。でも、歌曲・オペラをふくむ歌手数百人、数千曲にはNetにない精選曲も多く、いわば私設YouTubeは要望があれば1,2分で出せるので、3つのサロンでは年じゅうフル活用しています。

 海外旅行は現地見聞・鑑賞などが主目的ですから、ヴァーチャルでないのは有意義でしょう。いまは旅の予約・支払い・道案内などでIT機器は超便利らしい。いずれ従来のAV機器なしに、配信だけで音楽や映像を楽しめるようになるとか。超・隔世の感としかいいようがありません。

 <さくらんぼの実る頃>を初めて聴いたのはイヴ・モンタン(1921-91)ですが、1960年前後でしょう。録音はLPで30~60代の4版すべていい。CD「幻のラストコンサート」収録の<さくらんぼ>は87年(66歳)の無伴奏録音ですが、ラストコンサート1992.5,Bercyの予定曲目だったのでしょう(予告ポスターは日本シャンソン館に展示)。彼の公演は5度みたが、1981、82年なのでこの曲は聴いておりません。歌唱映像は、ドキュメンタリー映画『長距離歌手の孤独』1974の最後に収められたものが唯一かも。オランピアで5年ぶりのステージ、チリ難民救済チャリティ・ガラコンサート74.2でした。LD「永遠のY.モンタンⅥ」92(BD変換)、映画94などで見られます。

 ナナ・ムスクーリ(1936-)のが初めて日本の電波にのったのは1968.9.8、NHKラジオ蘆原英了の番組です。歌声を聴いて身じろぎもできないほど、官能的というか衝撃的な感動体験でした。再放送でエアチェックしましたが、レコードもほしい。それは1971年夏の初渡欧3週間のうちパリ1週間中に実現しました。シングル盤fontana 460.245ME(後にLP邦盤SFX5094,SFX6003)です。YouTubeによれば1967年の録音、しかも歌唱の動画もあります。いまは3番の省略と美声だけのようなのが不満でなくもありません。ある講座で4番までフル演唱の鑑賞らしいが音源を知りたい。1974年の来日公演では歌いませんでした。隣席の著名歌手は体調不良で後半には席をはずされました。2012年パリでもとめた楽譜集の LE TEMPS DES CERISESは 編曲がGeorges Petsilas(ギタリスト)です。ムスクーリが録音したときの楽譜でしょう。本来の3番の歌詞はなく、4番の歌詞が3番にくり上がっております。あの時から44年目にしてめぐりあえた偶然です。

  遅い初来日1980のコラ・ヴォケール(1921-2011)は、ステージと段差の小さいかぶりつきで息もつかずに固唾をのんで聴きいりました。<枯葉>とともにこの歌では別格と申せましょう。公演では古いLP邦盤OR8052で聴いていたクレマン歌集の「さくらんぼの実る頃になると」ではなく、多くの歌手のように「さくらんぼの実る頃を歌うようになると」で歌っておりました。

 ジュリエット・グレコ(1927-)と1969年サインを楽屋でいただいたシャルル・トレネ(1913-2001)はライヴにふれましたが、この歌はLP,CDでした。トレネは歌の後半ではスウィング調になり、詩人らしく詩句を変えたりして歌います。2~4番で単語を変えるのは他にも何人かいて、それは誤ってなのか、それで意味をなしてはいても、作詞者に失礼でなければいいのですが。

 ティノ・ロッシ(1907-83)は古い録音(1938)ではなくLP(1971)で聴きました。同輩のジャン・リュミエール(1907-79)もあまい歌声で聴かせます。映画のなかのカフェ・コンセールで<一緒に踊って>を歌っていたシュジー・ドレール(1917-)のは、エアチェックが音質不良なのでYouTubeに期待したい。ムルージ(1922-94)はテンポが速すぎのような版もあります。ジャック・ランティエ(1930-)は「やや哀調をおびた初夏のほろにがい」味を出しているようです。最後はわが真打ち登場、エレーヌ・マルタン(1928-)は青春謳歌より追悼がこもり挽歌のようですばらしい。

 ナナ・ムスクーリはマリア・カラスをめざし、ハリー・ベラフォンテと親しく、ヴィーナーリート<荒野に咲く最後のバラ>も歌っていました。その作曲者シュトルツは葬送歌に希望し、歌ったのは宮廷歌手カール・デンヒでしたか。ひいきのルドルフ・ショックも名唱です。(2016.2.18) 後藤光夫©

 

シャンソン館へ寄贈:後藤光夫
シャンソン館へ寄贈:後藤光夫

20160218b
コンサート 1992.5 (オムニスポール・ベルシー) は幻に
<さくらんぼの実る頃>ほか
<さくらんぼの実る頃>ほか
<さくらんぼの実る頃> Georges Petsilas 編曲
<さくらんぼの実る頃> Georges Petsilas 編曲
20160218e
Amitie Charles 1969 トレネのサイン